忘れられた杖

忘れられた杖

「肘を折った老僧が、湧き出ていたお湯に浸かったところ、たちどころに傷が癒えた」という開湯伝説を今に伝える肘折温泉。肘折は観光向けの温泉地ではなく、傷や疲れを癒す〈湯治場〉として、現在でも農閑期を中心に賑わっています。その効能はというと…「店番をしているとね、湯治に来たばかりのときは這うようにお店の前を通っていったお客さんが、帰るときにはシャンと背を伸ばして自分の足で歩いていくんだよ」とか、「杖をついて肘折温泉にきた人は、帰るときにはその杖を旅館に忘れていってしまう」などなど、ありがたい逸話を温泉街で度々耳にしました。若松屋 村井六助には実際にその忘れられた杖〈忘れられた杖〉が何本も残されていて、玄関先の下駄箱や倉庫で、取りに来るかどうかわからない持ち主を待っています。