地蔵倉への春のお供え
山の中腹に据えられた参道の雪が消えてしまうと、『地蔵倉』では春の訪れ告げるお祭りが執り行われます。旧暦の4月21日に、地蔵倉の管理を代々任されている『亀屋旅館』の人々が、肘折温泉の商売繁盛を祈りつつ、お地蔵さまにお供え物をする素朴な儀礼です。供物は肘折で採れた山菜が中心ですが、「決して供えてはいけない」品もあるとか。それは〈ウド〉と〈アケビ〉。そもそも肘折の〈開湯伝説〉は、現在の地蔵倉がある崖から落ち、肘を折った老僧が、お地蔵さまに導かれて湯を見つけた―というお話。亀屋に伝わるところでは、そのとき崖の上でお坊さまの足をとったのが〈アケビのつる〉だったとそうな。「だからこの2つだけは絶対にお供えしては駄目なの。でも何だかおっちょこちょいなお坊さまよねぇ」なんて、亀屋旅館の人々はニコニコと笑いながら教えてくれました。