名残惜しい茅葺屋根の風景
戦前の肘折は、山の上から見渡すと村一面が茅葺屋根に覆われていたそうです。『葉山館』でも昭和40年に屋根をトタン葺きに変えましたが、ご主人の三原さんは当時の写真を眺めながら「もったいかったなぁ。今になって茅葺屋根のよさがわかるよ」と言います。三原さんによると、屋根に葺かれる〈茅〉は、『茅場(かやば)』と呼ばれる共有地で管理され、一軒分の量が厳密に決められていたとか。また、冬を越えると屋根の茅は雪どけと共に抜けてしまうため、職人さんが補修してくれたそうです。この〈刺す茅(さすがや)〉の風景も今は見られません。高度成長期のなかで茅葺屋根は急激に姿を消してトタン屋根に変わり、縁側にもサッシが入りました。近代的な湯治場として整備された肘折温泉ですが、今でも数軒の茅葺民家を温泉街で見ることができます。