お客さまと村の子どもたち

お客さまと村の子どもたち

肘折は素朴であったかい温泉場。そこかしこに漂う〈懐かしさ〉は、レトロ調の演出ではなくて、もっと心の奥の記憶と結びついている気がします。大穀屋旅館の若旦那・柿崎道彦さんは、幼かった頃、両親共に旅館業が忙しく「親に遊んでもらった記憶がないですね。僕は湯治客のおじいさん、おばあさんに育てられたようなもの」と言います。親のかわりに遊び相手をしてくれたお客さまと、一緒にながながを湯船につかったり、昔ばなしをせがんだり、ちょっと遠くへ散歩に出かけたりしました。今でもそのお客さまは、道彦さんを孫同様に可愛がってくれるのだとか。旅館や商店で働く人々は、お客さまと村の子どもたちみな同じような子ども時代の思い出を持っています。住民と湯治客の間にある深くて長い信頼関係が、〈懐かしくてあたたかい〉、肘折温泉の魅力をつくりあげているのです。