かつて宿の〈縁側〉は台所だった

かつて宿の〈縁側〉は台所だった

肘折温泉では、表通りに面した旅館の〈縁側〉は、湯治客の台所でした。戦前の温泉はほとんどが〈湯治場〉でしたから、肘折でも旅館は長湯治中に寝泊りする部屋でした。(現代ならウィークリーマンションの感覚でしょうか)そのため、自分で炊事道具を持ってくるのが当たり前。お客さんによっては布団や枕まで持ちこんだそうです。食事が付かない〈素泊まり〉が基本なので宿代はとても安かったそうです。各旅館の縁側には〈七輪・火鉢・炭箱〉のセットが必ず置いてあり、湯治客は米だけは持ち込んで、摘みたての山菜や、商店で買った食材を料理して食べていました。かつて宿の〈縁側〉は台所だった縁側で煮炊きをしていると「何をつくっているのですか?」とのぞき込む別の宿泊客とついつい話が盛り上がり、お客さん同士が親しくなるなど、〈縁側〉は社交場としても活用されていたそうです。